[スペクトラルフォース 愛しき邪悪 ソルティ→シンバな、ソルティさん裏切り前の日常一コマネタ
8割ぐらい纏まってる記憶だったけど、6割ぐらいだった。大蛇丸さんの台詞調べ直さないと話にならんわー。。。
ソルティがシンバの天真爛漫さに救われながらも嫉妬し、それでも執着せざるを得ない程に心惹かれ、所有欲を抱いてしまっている、二律背反かつベタ惚れな心境を書きたかった…筈。]
「シンバ? シンバ、何処に居るんだい?」
緑の国ムロマチと表されることがある、その豊かな森の木々の中、紅く長い髪を一つに束ね背中に垂らした青年が、辺りをしきりに窺いながら歩を進める。
すらりと丈高い、けれど未だ少年の面影も残した繊細に整った顔立ちと、細くしなやかな体躯。そのたたずまいと碧瞳の油断無い煌めきが、青年を知性に優る者と伺わせる。しかし、背に負った身の丈近くある長剣は、彼がその手に武器を握る者であると物語っていた。
「…シンバ! いい加減城に戻って貰わないと、政務が進まないんだよ。シンバ、…シンバ、居るんだろう!?」
先程から探し続け割いた時間の割に、目的の人物は一向に見つかる事がないのか、だんだんとその声は苛立ちの色をにじませる。
「いくらある程度行く場所に目星はついてるっていったって…そもそも森自体が広過ぎるんだから」 そう呟く青年は、森の中目的の人物が居ると予想される数箇所の場所の内、本日四箇所目である場所を目指して歩いていた。
紅髪の青年の名をソルティという。ネバーランド大陸の極東に位置する島国ムロマチの軍師であった。
そして、彼が捜し求める人物こそが、ムロマチ国主であるシンバ。 その身に自然の化身である古代神ガジュウを宿す稀有なる少年。 元々自然の守人の一族であった彼の少年は、戦乱の影が見え出した時期、”声”に導かれるまま辿り着いた泉の水底でガジュウの力を得、戦乱の災禍によって焼払われ薙ぎ払われゆく自然の悲鳴を己がものとして感じ得るようになったという。
そして少年は憂いた。 覇を競い合う人間達によって無為に壊され喪われてゆく生命達を。 それらの叫びを感じながらも救うこと叶わぬ己の無力さを。
「戦争は嫌いだ、自然が破壊されることは僕には耐えられない」と。
その様な折り、少年の前に現れたのが青年であった。
青年は、少年に告げた。 ――このまま、己が欲望に突き動かされるままに争いを続ける者達によって無為に喪われる自然を、ただ手をこまねいて見過ごすのか、と。ただ憂い嘆き続ける事で得るものは己の憐憫という自己満足を満たすものでしかない、真に守りたいものが在るならば、己の持ち得る限りの力を以って立ち上がるべきなのではないかと。
「君は、自分には力が無いと嘆くけれど、君は一人じゃない。 僕が居る。」
少年が自身一人では足りない力は青年が傍らで補うと、その守りたいという想いこそが何より大切なのだからと、青年は告げた。
「僕は君と共に行くよ」
想いを叶える為に、その行く先が修羅の道であろうと同道しようと。少年の持つ自然を体現する力と、青年の献策を生み出す智略を携え支え合い。 そうして進む先、少年の目指す未来を共に形作ろうとする者達も現れる筈だからと。
告げた青年の碧瞳を真正面から見上げる、少年の大地色の瞳に湛えられた無垢な光は、了承の意を浮かべ、信頼の色を掃いて笑み崩れた。
「それじゃぁ、僕達は友達だね」
少年は、疑うこと無き純真さと穢れ無き無垢を以って、青年を受け容れた。友情という絆を結び合い。
そして彼等は、自然を苛む元となる無用な戦乱を抑えるべく、競い争いあう国という枠組みを無くす為の戦いへ身を投じた。
彼等はムロマチの城を拠点とすべく、国主大蛇丸が城を空けた時を狙い居城を襲撃した。皇竜スペクトラルの生まれ変わりと囁かれ、武を以ってその勇名を轟かせ人心をまとめあげる国主が留守であればこそ、守りを固める兵達の覇気も精彩を欠く。それを狙っての強襲であった。数で劣る彼等ではあったが、多少の無理を承知とすれば、無謀な策では無かった。事実、一時、城は彼等の手に落ち掛けていた。
だが。機敏に状況を察し居城へと舞い戻った大蛇丸自身の手により、彼等の乱は幕を閉じた。
「 」
捕われる段に 彼等に言い放った大蛇丸の言葉に、彼等は驚愕し、困惑した。
「全く…我が国主殿は、どうしたらこんな時期に失踪出来るんだ。もう、残された時間はあまり無いというのに、」
苛立ちと共に無意識に言葉が滑り出した瞬間、自身の言葉に青年は表情を曇らせた。
そうだ。時間が、もう無い。この国が覇道を駆け上り、名をこの大陸の歴史に永劫刻み付ける、その為に許された時間は。
…否、そうではない。違う。
自身に許された時間が、残り間もないのだ。
それは、免れること無き未来。
それを知った少年は、どんな表情(かお)をして自分を見上げるだろうか?
脳裏に、それを思い浮かべようとして、けれど果たせず失敗する。
当たり前だ。
あの少年が今までに一度として見せたことのない表情の筈なのだから。
埒も無い想像を試みる自分に、失笑を漏らした。
汚れ無き、純真無垢なる、純白の。 真っ白な。 それは、侵される事無き深山の峰に、降り積もる白雪の如き真白さ。真っ直ぐな?
誰もがそんな形容を心中に浮かべ、称え賛美するだろう、鮮烈な印象をどんな者にも変わらず焼き付ける彼の主たる少年の、その生来の性質とは真逆であろう表情を想像しようとする、己の(卑小? 愚劣?)下劣さ。
彼にその顔をさせることで、汚そうとでも思ったのか?
否、たとえそれが無意識であれ、それは恐らく自身の望みなのだ。あの少年の表情が歪み、醜く引きつる様を、憎悪で凍てつくーーーいや、苛烈に燃え上がるのだろうか?、その瞳を、どうせならば、いっそ他の誰でもない、自分こそが引きずり出してしまえればいいと。そう、望んでいるのではないのか? 彼の闘神ウェイブの言葉にすら、自分は未来を見つめ続ける、けして後ろは振り返らないのだ、とーーーあまりに純真に、言うなれば子供の一途さともいえるだろう、己の信念を貫き通そうとする貪欲とも言うべき頑迷さ。自分を崩すことなく、けして他者を憎みはしない…それは裏を返せば、如何なる者をも懐に抱いたとて、己を守ろうと無意識に殻を造るのか、決してその心の奥底までは受け入れず。 だからこそ、彼の少年は迷い無く唯一筋の道をひた走る。 (自分の中に受け入れようとはしないからこそ。)
ならば。
ならばこの自分こそが
常に側に、友としてその隣に在り続ける自分が、
あの少年の心に楔を打ち込むのだ、
それこそが、己のが望み。
彼の少年に、決して忘れ得ぬものを刻み付けるのだ。
それが少年自身の、少年自身足り得る本質を、壊し得るものであろうと。
否。
それをこそが我が望み。
己の行いによって、崩される少年が見たいのだ、自分は。
何という、愚かしさか。
あの少年を望んでも居ないーーー恐らくはそれまでの短い生涯一度として考えだにしなかったに違いないーーー歴史の表舞台に引きずり出したのは自分だ。欲得尽くの黒く昏く染まった腹の底を見せる事ないよう、少年の心を動かすだろう平和の獲得を餌に近づき、やがては「友情」を創り上げ・・・、全ては計画通りに。滞り無く、何一つ支障無く計画は順調に進んだ。
そして、気が付けば
自分こそが、囚われていた。
無条件に寄せられる、信頼を湛えて煌めく瞳。 真っ直ぐに、瞳を捕らえる無垢な
少年との、変わらぬ信頼関係ーーー友情を望みながら、けれど最初からそれが存在し得ない関係だと知る自分。
必ず来るその優しさに彩られた関係の崩壊に怯え、しがみつきたいと、出来うる限り隠し仰せたいのだと振る舞いながら願いながらも。
その真逆を望むのだ。
矛盾。
絶対に待ち臨む結果であるのならば、それならばいっそ、自らの手で何もかも壊してしまえと心が叫びを上げる。
どうせ歪ませるのならば、決定的に、自らの手で、より残虐に派手に露悪的な程に。
逆らえない他者の波に巻き込まれ刻まれる傷跡よりも、自らの手で引き裂いてしまえば良いのだ。
その愉悦。
彼の温かく眩い心に、紅い徴しを刻んだならば。
その歪んだ顔は、どれだけ自分を満たすことだろうか。
自分が、彼を壊し崩していく。
他の誰でもない、自分こそが。
それは、幸福だ。
自分であればこそ、自分しか出来ない事に、万能を感じるだろう。
他の誰でもない、自分のみが出来ること。
その時、それは至福となるだろう。
少年の心は、自分を映し出す。(自分を刻み付け、癒えない瑕疵を残す。)
彼の心は、自分のもの、となるのだ。
だからそれまでは。
誰のものにもならないよう、守っていよう。
何者にも打ち砕かれぬよう、大切に、大切に。
真綿でくるんだ赤子の様に。
自分が、守るのだ。
その時まで。
梢の元、あどけなく口を開けて小さな寝息をたてるその口許へ、顔を寄せた。
これは、僕のものだ。
微かな呼吸を吸い取るように、唇を重ね合わせた。
柔らかな、弾力が受け止める。
少年は気が付かない。
そのままそっと離れ、今度は少年を覚醒させるために、肩に手を掛け揺すった。
「シンバ。 …シンバ」
穏やかな日射しと、柔らかな梢の緑。
少年の愛して止まない、彼が自ら軍を率いる理由となった、これら自然。
少年自身が溶け込むように見えるのは、少年がそれらと良く似ているからこそか。
君を守るように、これらを守ろう。
この口付けは、契約の証だ。
僕だけしか知らない、僕自身の為の。
来るべきその時まで、僕が自ら君を引き裂くその日まで。
僕は君を守ろう。
これまでも、これからも。
君は、僕だけのもの。
己の心中に自嘲とも至福とも付かぬ笑みを口元に浮かべ、青年は、少年の名を呼んだ。
