[FF8 サイファー×ニーダ 自HP9000hitリク頂いて…完成できず、何年だ…。これ、どういう風にラスト持ってくつもりだったのか、思い出せない…。ですが、取り敢えず、手を入れる気があるのは晒す方向です。サイニーネタ帳…何処かにしまいこんでしまったけれど、あれ、一応ラストまで筋道立ててたんだよな…。出来ればサルベージしたい…]
自動制御された合金の扉が開くと、まず窓が視界に飛び込む。人の肩幅二人分より僅かに狭い程の枠幅を持つ、明り取りを目的としたそれ。瀟洒な細工を施された格子が組み込まれ、上部を半円に刳り貫いたその造りは、バラムの明るく煌めく日射しを受けた時、光と影を生み出すよう設計されている。
しかし今は日も落ちた夜半、鈍色の雲が重く空を覆い、その遙か上から射し込む月光は遮ぎられ、僅か、滲む薄明かりが届く程度。照明は本来の役割を果たすことなく、ただ備え付けられた室具の一つとして在った。
叩き付ける雨は、華奢に見えながらも堅牢な硝子に阻まれ窓枠を揺らすことはなく、ただ跳ね返る水音だけを響かせる。
「もう、終わりにしたいんだオレは」
薄暗い室内。
雨が激しく窓硝子を打ち付ける。
窓を背にして佇む、暗い人影。微かな明かりが逆光を生み出し、それをはっきりと見ることは出来ない。
無気力、或いは自棄故か。
項垂れたように見える塊りは、しかし、室内に入ってきた者を見据えていた。
拒絶という明確な意志だけを露わにする、言葉。
「・・・何の、話だ?」
部屋の主の言葉に、訪問者は、訝るよう言葉を返す。
「全てを、」
全て?
「お前と、オレと。オレ達の間にある関係に。終止符を打ちたい。」
切れ切れの言葉。訪問者は言葉の切れ端全てをつなぎ合わせた。
つなぎ合わせ、それらが包括し表す事実に思いを馳せた。
両者の関係。
関係と呼べるほどの物が、果たして俺達の間には存在していたのかと反芻する程に、当事者の片割れである筈の自分すら釈然としないつながり。
少なくとも、唐突な思いつきのような言葉に即座に意志の疎通を図れるほどのつながりは、両者の間には存在しない筈だった。
しかし、もう一人の当事者が関係と呼ぶ、つながりと呼べば呼べるであろうそれに、ああそうだ、と思い当たった。
自分がこの部屋を訪れる理由。
いつの間にか自分の日常の行動の中に組み込んでいた、この部屋への訪問。
恐らくは、目の前の男が何よりも忌避したがるそのつながりに思い当たり、知らず、訪問者の厚い唇の端が吊り上がる。
愉悦。
くく、と喉の奥が震えた。
それに拘る男に、自然嗤いが零れる。
「・・・お前が打ちたい終止符というのは、俺に抱かれる関係に対するものという事か?」
相手が曖昧に綴った言葉を、敢えてはっきりと明示した。
そして言葉にした刹那、それに対する相手の反応を見たいという衝動に駆られたが、生憎、逆光で表情は伺い知れなかった。しかし、僅かに揺れる影に相手の動揺を感じ取り、ほの暗い喜びを感じる。
「俺達の関係なんざ、いわゆる”肉体関係”ってヤツだけだ、・・・違うか?」
そうだ、両者の関係は、接点は、肉体だけ。
そういう事だ。
目の前の男にとってはこの上なく屈辱的であろう、関係。
「違わない。」
暫しの沈黙の後、真っ向からそれを肯定する声。肯定することは事実を受け入れることだ。それを口にすることで、どれ程の更なる屈辱をこの男は感じているのか?
---被虐の歓び、獲物が捕らわれなお傷を負いながらも抵抗する様は、絶対者の心を満たすのだ。人など所詮はこんなモノ。
今は逆光で見えない自分を見据える黒曜の瞳が、濡れた光を零しながら炯々と睨み付けてくる様を想像する。そして、その瞳の揺れる様を思いだし、眼窩の奥底が、じり、と熱くなるのを意識した。
---あぁ、そうだ。そんな事を思い出す程には、馴染み合った躯のつながりだ。
思い出したように繋げた躯。
貪るように、そこに在るもの(存在)全てを喰らい尽くすように、ただ餓えを満たすように、憑かれるように抱いた。
腕の中で悔しそうに歪む顔、明らかな快感を覚えたことに見せた羞恥の色彩(いろ)。
抵抗しようと全身を強張らせ、拒もうとする筋力の動きを、力でねじ伏せ組み敷いた、その瞬間に脳裏を突き上げる征服の歓喜。
張りの有るしなやかな筋に支えられた肢体は、柔らかく脆く崩れ去りそうな女達の肉体と違い、確かな質感を持って答えた。
交わす言葉は無い。睦言も、囁きも。ただ、荒い呼吸と喘ぎと濡れた抽挿音がその場に存在する音だった。
・・・そう。在るのは、ただ器としての繋がりだけだ。
そして、そこに存在するのは、征服する者と、それに服従する者。
強者と弱者。
力だけが両者の関係を意味付ける。
ならば。
その叫びは、関係の清算を求める言葉は、
弱者としては当然の反応か。
つまりは。
答え(そこ)に至り、吐き出した息とも尽かない苦笑が漏れる。
これはつまり反乱、か。
「お前は、オレの中を踏みにじり掻き乱すっ! 土足で上がり込んで、何もかもを滅茶苦茶にひっくり返して掻き混ぜて・・・ッ」
覆された価値観。
同性だというのに、否、同性であるからこそ余計に感じる屈辱。
同じ立場に在るはずの者、いや、SeeDである自分の方が、立場は上だとすら言えるというのに。
容易く、あまりに呆気なく、その境界線は脆く崩され、自信も誇りも打ち砕かれ。
感じたのは、相手への憎しみ、己の、あまりのふがいのなさへの憤り。
そして敗北感。
敵わない。
そんな声が、木霊する。
認めてしまいたくなる、その言葉。
けれど。
それでは、自分は何だというのだ。
学園を動かす・・・何時かは、そうなってみせると、前を向かっていた自分は。
気持ちでは何者にも負けない、譲らない、と。自分は自分なりに、己の価値観で勝っていくのだと。
そう、思っていたのに。
「力」。
圧倒的なそれの前に、自分は為す術も無かった。
それが無くとも、それを補うものを自分は持っている、けして負けないと思って進んできた、胸に抱えた自負心、自尊心。恐らく今までの自分を支え裏付けてきた何もかもが。
ものの見事に砕かれた。
そして、思い知らされる。
この男が部屋を訪れる度に。
両者の力関係を確認するかのように、毎度ねじ伏せられ、行為を迫られる。
嫌だと拒めば、拒む程にその行為を強いられる。
まるで隷属するかのような自分。
支配者の如く振る舞う男。
自分を支えてきた基盤が、剥落していくのが感じられた。
取り立てて目立つことはない。
優れている、と評価される魔法力も、男として何よりも真っ先に誇示される肉体面の頑強さに比べれば、それは霞む。
容姿ーー僅かに東方()の流れを汲む顔立ちは、確かに平凡というものでは無かったが、その特徴の持つ凹凸の無い人形のような平坦さ故に、主張はなく。
総じて、当たり前の一SeeD候補生として過ごしてきた。
それでも。否、だからこそ。この目の前の男や、スコール・レオンハートといった一目見ただけで印象を強く残す存在感は無いからこそ、自分なりの価値観を保ち、上を目指すだけだと思うことで、自分を支えてきた。
正直、彼等を羨望する事がなかったわけではない。
男として、彼等ほど既にして備わった身体能力をうらやまぬ筈がない。
雄である事を、包み隠さず、主張する身体。
刺激された。
「平凡で、いいのですよ」と学園長に声を掛けられた瞬間、理解されていた事への安堵と同時に、突き放されたような落胆を、悔しさを感じた。
そう評価される自分。
だからこそ、意地ででも上へ向かってやると、あまりに浅ましいと思いながらも、そう密かに心の中で誓った。
そうやって、自我を支え、自負心を育ててきた自分を、あっさりとこの男は踏みにじっていく。破壊していく。
もう、自分は手足がちぎれきる寸前の、意志すらも持たぬ玩具の様なモノへ成り果てるのだろう。
だが。
それだけは嫌だと。
例え自分が敗者であることを認めたとしても、それでも只の木偶人形に成り下がる事だけは認めないと、欠片の意地が頭を擡げた。
名を挙げるのだと。
余所者である自分が成り上がるのだと、無力感と共に感じた、幼き頃の野心、上昇心。
傍流であるはずの自分が多分に受け継いだ力を使って、名を為すと誓った、子供の自分。
どれだけ踏みにじられ蔑まれようと、歯を喰いしばり、目を真っ直ぐに背けず。自分達を阻害しようとする力に屈すること無く。逆らい、睨み付け、蔑まれる由縁たる血脈に誇りを持って生きてきたのだ。
そして知った、ガーデンの存在。
知った瞬間、これだ、と確信した。
自分という者の名を為すための術。
己の誇りを、示す場所。地位。
「本気で、終わらせられると思っているのか? お前は」
「終わらせて、やるさ。」
「・・・ふん、逆らう飼い犬にはお仕置きが必要・・・とな」
「無駄口を叩くな。・・・抜け」

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