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ネタ畑

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2012.12.24 Mon 「 クローム髑髏と10代目、及びファミリー(数年後未来) 1その他
「ふうん、またしぶとくなってるみたいだね。パイナップル頭」
「…その言葉はそっくりそのままお返ししますよ、アヒル君」
 深紅に染まる衣服をその身に纏う青年が二人、武器を手に向かい合い、紛れない殺気を籠めた軽口を叩き合う。 衣を紅く染め上げたその鮮血は、それぞれ自身のものであるのか或いはまた互いのものであるのか。既にそれを判じるのは不可能な程に双方の傷は深く無数、全身に及んでいた。その傷のどれもが、致命傷となり得る急所からは僅か逸れた箇所にあり、それは互いの拮抗した力量を顕著に示しながらも、それが故に闘いを一層長引かせる要因とも見て取れた。
 互いの挑発によって、構えながらも静止し様子見をしていた双方の様相が、一気に激昂の色を帯びる。
「…本当に……、今日こそ息の根停めてあげるよ…!」
「貴方こそ!いい加減往生なさいっ!……輪廻すら出来ぬよう、魂の一欠片も残さず消し去ってくれます…!」
 双方、寸分違えず手にした得物を閃かせ、互いへ攻撃の牙を剥き合う。
 和室を基調とし、道場としての使用にも耐え得る造りの、遮蔽物を可能な限り取り除いたその板の間で繰り広げられる闘い。戦場となる其処は、欄間や灯り取りの窓にさり気無くも繊細かつ緻密、上品に仕上げた意匠の彫刻が無数施されており、瀟洒な造りのそれらが職人の粋を凝らした物である事は、見る者が見れば、容易に知れたであろう場所であった。 しかし今、その中で相争う二人の青年にとって、それら調度の事など意識に上らせる価値は露ほどにも有らず、…結果として、それらの数々は、哀れ、無惨にも今やその姿を元のまま留めることは叶わなかった。
「……っ、本当に、しつこい…!」
 周囲の物を遠慮呵責無く巻き込みながら、紫雲を纏った…アヒル君と呼ばれた青年が、仕込みトンファーから延ばした玉鎖を風を切るよう唸らせ円弧描かせ、正面、対峙した藍の薄霧に包まれた…パイナップル頭と断じた青年へ、一気に間合いを詰め、奔り寄っていく。
「クフフ…甘いですよ、雲雀恭弥!」
 その攻撃を、長柄の三叉槍で受け流し、攻撃の矛先を逸らしながら、紫雲のアヒル男…雲雀恭弥の体裏、左腕で一撃目を振り抜き腹を晒す左側面へと回り込み、下段から掬い上げるよう、藍霧のパイナップル男が突き込む。
「ッ!?…手緩いよ、六道骸…!」
 雲雀は、撃ち込んだ勢いそのままに動きの流れを停めることなく即座、一撃目で踏み出していた左足を右半歩前、更に踏み出しそのまま次の動作への起点とし、右足を体後ろ側に向かう時計回り方向、半回転踏み出し、流れを途切らせぬまま、右腕を半ば後ろ手に振り抜き胴を庇う形、下段からの突きを受け止める。
「…鈍ってきてるんじゃないの、随分と攻撃が…軽い!」
 仕込みトンファーからギミックの一つである鉤爪を伸ばし、押し合う形になっている三叉槍の柄を折り砕くべく、噛ませようとする。
「その手は、喰いませんよっ!」
 その穂先だけでなく柄尻もまた、坤の如く扱う事で刺突ないし打撃に用いる事が可能な長柄の武器の特性であり、藍霧のパイナップル男…六道骸は、トンファーの仕込み鉤爪が伸びきり十手様とならぬ内、接触箇所を支点に、長柄を回転、柄尻を振るい上げ、心の臓へ向けた一突を加えた。
 同時、骸の攻撃を既にして予測、体勢を整え体正面に骸を捉え直していた雲雀もまた、下半身を低く沈め、棘牙を生やしたトンファーでもって鳩尾を狙った一撃を、撃ち込んでいた。
 雲雀の左頬から血が繁きを上げ、すんでの所で体を反らした骸もまた、避け切ることは出来ず腹部から血を滴らせる。尤も、両者の躰は闘いの末、既に幾度と無く切り裂き合った箇所からの出血で濡れまみれており、今また新たに血が滴った所で、さしたる外見の差違は無かった。
 だが、体力だけは、双方共に確実に損耗していた。
 そして。
「あぁ、…いけませんね、今日こそは、と、思ったのですが……」
「! ちょっと、またか六道骸…っ!?」
 崩れ落ちるよう、膝を付いた骸の躰を取り巻く藍色の薄霧が、一層濃密に立ち篭め、その躰を覆い尽くしていった。
「………全く…。本当に、心底気に入らない、あの南国果実」
 それまで発していた闘気を消失させ、トンファーの血糊を振り払い、呟く雲雀の視線の先。
 六道骸という青年の在った所、藍の薄霧が消え去り顕れたのは、骸と良く似た髪型をした、一人の少女。…それは、躰を『監視者の牢獄』に囚われた六道骸が、その精神体のみ抜け出し現実に実体化するため得た仮初めの宿体であり、その宿体自身である者の姿。強力な幻術能力で以って幻覚を実体化すら可能にする能力(ちから)を持つがゆえに、六道骸の宿体となり得、同時にまた、自身が既に失っていた内臓を再現する精神力を六道骸に依存し、…六道骸の精神が支えるからこそ存在し、生き永らえる事適う、少女。
「…ぅ……」
 立ち上がろうとした少女は、小さく呻きを上げた。
「?」
 その反応を訝しく感じ、少女を見やった雲雀は、その躰数カ所に出来ている傷に気が付いた。
 それまで闘ってきた常で在れば、六道骸がその少女の躰から去った時、六道骸の負った傷は六道骸のものと認識されるのか、メカニズムは庸として知れないものの、少女の躰に傷が残される事は、雲雀の知る限りでは無かった。しかし、今回に於いては、常ならば割って入り強制的に闘いを止める存在が不在だった事で、遠慮無く相当な深手を負わせ合ったのが影響したのか…原因が不明ではあるものの、少女が纏う衣服に鮮やかに映える紅色が、常とは違うその事実を嫌が応にも認識させた。考えてみれば、以前闘い合った時に比べ随分と長い間闘い続けていたような気がする、と朧ろ気に雲雀はその記憶を掘り起こす。六道骸の出現時間の長期化なども残された傷の有無にまた関係あるのかなどと、愚にも付かぬ事を考えていた時だった。
「…未だ、続けるの?」
 傷に目をやる雲雀の視線に、闘い足りないのか、自分とも闘う気か、と少女はその意志の所在を問うた。此方にも異存は無いとの意思表示に、三叉槍を構えてみせる。
「いや、止めておこう。君は、六道骸じゃない。 …ああ、深いな」
 三叉槍を構えた少女を意に介さず、その左上腕、より鮮血の色彩(いろ)が目立つ箇所の止血をしようと、常日頃常備している止血布を懐から取り出し、雲雀はその傍らに膝を付いた。
「!? 何を…っ」
 腕を取ろうとした雲雀を、その意図が解らず警戒した少女は、腕を庇い睨み据える。
 差し出し掛けた手を止め、改めてその視線を正面から雲雀は受け止める。 そして告げた。
「その躰は、六道骸の宿体だろう。未だヤツには、借りが返し切れていないからね。 クローム髑髏、君には万全の体調で居て貰わなければ困る。…腕、出して。止血するから」
「………、…私は……」
 呟き、けれど雲雀の言葉に従うことなくその手を拒もうと、少女…クロームは蹲ったまま。反射的に庇った己の腕の傷、そしてまた体に無数残った傷が示す、今までには無かった事態に戸惑いを覚えていた。
 骸の精神がクロームの躰に在った時に起こった、殊、躰に関する出来事は、骸が全て引き受けるかのように、それらの事実を思い起こさせるような跡を一つとして躰に残すことは無く…結果、クロームの記憶としてそれらの事実が有った事を認識させはしても、肉体を伴った体感として残ることは無く、つまる所、身に迫る実感を覚えたことは無いに等しかった。…即ち、あくまでそれらは六道骸の体験した事態であり、クローム自身の体験した事としては認識されていなかった、という事であった。
 けれども、躰に、消し去りきれず残された無数の傷は。六道骸とクローム髑髏という、依存し合う事でもって存在たり得る者達でありながら、決して同一では在り得ずあくまで異なる者で在る筈の二つの存在が、非常に不安定で曖昧な関係で成り立っている事を見せ付けるかのようであり。その異なる存在の証明となるだろう肉体と精神の完全な分離が今は成し切れず、二つの存在の境界が揺らいだ証とも指し示すかのように、クロームの躰に残されていた。それは思いがけず、雲雀の言葉と相俟ってクロームへと、自身にとっては今更な筈の事実を顧みさせ、突きつけてきた。 底知れず、言い知れぬ漠然とした不安を伴わせながら。
 ――…そう、この躰は、骸様のための、躰。 私の躰であって、でも、骸様が居なければ存在し得ないこの躰、…私自身。
 自身の存在の不安定さから来る焦燥なのか。当たり前の事実を、なぞるように確認している自分が居た。
「…ちょっと、君ね、……?」
 治療を拒み、蹲ったまま反応を見せないクロームに焦れ、雲雀が苛立ちの声を上げる。そこへ、慌ただしく足音を立てながら走り来る一つの新たな人影。小柄な姿のそれは、二人の姿を見て取ると声を投げ掛けて来た。
「ああ居た、二人共!……ああぁー…、やっぱり遅かった、か、ぁ……」
 次いで、側に寄ってくる過程で辺りを見回し、…壊れてるよ、壊れてる、…壊れまくってる…!…と、悲痛の声を上げる。その嘆きは留まることなく、修理代が…!こんな事なら地域活性化とか言って凝った細工とか目一杯頼んだりするんじゃなかったっ四丁目の棟梁にまたどやされるよオレ…ッ!、…等々と心の叫びが駄々漏れとなっていた。
「五月蠅いよ、沢田綱吉」
 悲嘆と途方に暮れるその青年、沢田綱吉の慟哭と懊悩に動ずる事無く…毛一筋程の興味すら示さず、その家屋損壊の主要因たる雲雀が言い放つ。
「…ですけど雲雀さんっ!………、あれ?」
「何」
「…あぁ~……、へ!?」
 気遣う気配を微塵たりとも見せず投げ掛けられた容赦無い声に、反駁しようとした綱吉の視線の先。蹲るクロームと傍らに膝を付く雲雀の姿、そしてその雲雀の手にある止血布、という状況を目のあたりにし。雲雀の独善の声に抗議し掛けた綱吉の思考は一時停止する。
「…うー、ん、ん…?」
 そのまま二人に焦点を当て、暫し、その大きな瞳をしばたたかせた。
 あの雲雀さんが、世にも珍しい事をしようと、している? どう見てもあれは、クロームの止血をしてあげようとしている所、だよな…、等とようやっと頭を回し始め、次いで出した結論は。
 ――もしかして、雲雀さんとクロームが多少なりとも良好な関係が築けるチャンス?…ついでに、二人が険悪な関係じゃなければ、多少は雲雀さんと骸の関係も、クロームが間に入ってもうちょっとましになるかも!?
 固まったまま時折唸り声を上げる綱吉を、珍妙な動物の挙動を伺う面持ちで静観する二人を余所に、平和な日常と心の平穏、何よりも建物の無事を求める綱吉が弾き出した、答えであった。
 そんな綱吉に、何時まで静観していても埒が空かない、と元来が短気な雲雀が痺れを切らし、クロームは心配の声を上げる。
「ねえ、何か用があるから来たんじゃないの? 沢田綱吉」
「…ボス、大丈夫…?」
「あ! …えぇ、用、…用はですね。用は有ったんですけど……もう、済んでました」
「そう。なら良いけど、…じゃあさっさと消えたら?」
 雲雀のおざなりな物言いが、本来の目的を思いだし消沈しかける綱吉の気分に、更に追い打ちを掛けた。可笑しくないはずが何故か虚ろな笑いがこみ上げ、口は勝手に動き出している。
「雲雀さんと骸が派手にやり合ってるっていう報告があってですね?帰宅早々駆け付けてみたんですよこれでも、二人を止めるために。だけど、来てみればもう終わっちゃってましたしね?…案の定、あちこち、あっちこっちが、壊れま、く、り、ですし……ね? あっははは、いやーもうどうしようどうしてくれようこの損壊状態…っ!」
「頑丈に造らない君が悪い」
 にべにも無く切って捨てた、罪悪感の欠片も無い雲雀の一言に、綱吉の中の何かが、綱吉自身にのみ聞こえる激しい破裂音を立てて、ぶち切れた。
「な!…あのですねぇ!これでも顔ぶれ考えて多少の摩擦は考慮して、最初から壁は対戦車仕様の特殊合金板を対爆構造で設計してそれを更に2層構造にしてたんですよ!?普通なら1層でも十分な硬度強度は有りますよ生身の人間に傷一つ付けられる事なんて万に一つも有り得ませんって業者さんがお墨付きしてくれた、それを2層ですよ!?…それをいともあっさり、寄ってたかって壊してくれて…、仕方が無いから、どんな壊し方すればこうなるんです象だってこうまで見事に壊せませんよって業者さんに呆れられながら、今度は3層にしてみればこれまたあっさり!今じゃぁ7層ですよ!? ……どんだけあなた方は、鰻登りに破壊力増してくれるんですか!…ていうか、ちょっとは年齢相応に遠慮ってものを覚えてくれたって……ッ!!」
「知らないよ。…何?沢田綱吉、僕と遊びたいの?言いたい放題言ってくれてるけど……、咬み殺すよ?」
 またしても綱吉の言を一言で切り捨て、その物言いが癪に障ると言い放ち、武器を構えてみせる。
 そこへ、クロームの謝罪が割って入った。綱吉の、家屋損壊への憤りに対する謝罪の言葉を紡ぐ。
「あの! ボス…、ごめん、なさい……」
「え?…あ、あぁ、……ごめん、クローム。ちょっと、修繕費とか考えたら思わず止まらなくなっちゃって、…驚かせたよね。悪かったよ、クロームに責任は無かったのに。…君が謝る必要ない。アジトを壊した事、クロームは無かっただろ?」
 悪いのはあくまで六道骸、それと、また性懲りも無く武器を構えてるこの人、と雲雀に視線を移し…、クロームが謝罪の声を上げたため、結果として綱吉を咬み殺すことを阻止されそのまま黙殺された形になっていた雲雀が、黙ったまま、怒りを募らせている姿を目の当たりにし。その立腹の気配を否応無く見せ付けられ、思わず内心で悲鳴を上げる。
 ――ダメじゃんオレ!折角あの雲雀さんが、クロームの怪我手当しようとしたのに、邪魔する事になってるし…!!しかもヤバイ、雲雀さんがどんどん不機嫌に…!き、軌道修正、しなきゃ……! …と、その焦りは募るが。
「……トレーニングルーム、壊したことが…」
「…あ、それは確かに…有ったかも。でもさ、トレーニングルームの場合、最初っからそういう目的の場所だから、壊れても被害が他の場所に及ばないようにそこら辺折り込み済みで設計してるんだ。だから、あそこはカウントしない」
 トレーニングルームの設計に関しては、建設中リボーンに、実地で壊されたり、壊されたり壊されたりしながら耐久テスト重ねてるから、設計構造に関しては折り紙付きなんだよね、と続け……綱吉の内心の焦りとは裏腹に、クロームとの会話は続いてゆく。
「…そう、なんだ…」
「うん。」
 多少安堵した様子を見せたクロームに、思わず微笑み掛けた。
「…ありがとう、ボス。……良かった」
 綱吉のふわりともふにゃり、とも形容できるようなその何処までも柔らかく自然な微笑みに、クロームの心が緩み、揺るぐ。先程までの漠然とした、けれども確固として感じた筈の不安すらも払拭させ、それらは全てただの杞憂であったのだと思わせる…、その全てを包み込むかのような、陽だまりの笑顔。
 ――ボスは、優しい。笑顔が、あったかい、日向みたい。 この笑顔が、大好き。
 恐らくは、守護者達がそれぞれに思惑や主張を持ちながらもその守護者という立場を決して否定しようとはしない要因の一つであるだろう、沢田綱吉の内面を顕わす、その笑顔。
 それにより、緩み不安から解き放たれた心は、極自然に常と変わらぬ骸への心配という形を取って、骸へと向かっていた。
 ――…本当は、ボスが帰ってきそうだからって、骸様が出て来たのに…結局、雲雀恭弥と顔合わせちゃって闘う羽目になって、予想以上に力を使い過ぎちゃって……。骸様、きっと、ボスに会いたかった筈なのに…。何だか、私だけボスに会えて、ごめんなさいって、思っちゃうな…。
「………ちょっと…?」
 微笑む綱吉と、それを見つめるクローム、その二人の姿に、とうとう、雲雀が痺れを切らした。
「はい。」
 …内心では、雲雀さんヤバイ雲雀さんヤバイ、と自己内警報が最大で鳴り響くのを感じながらも、ままよとクロームに微笑み掛けた面持ちそのまま、にっこり、と形容できる程一層笑みを深くして、雲雀に応えるべく綱吉は振り返った。
「!?」
 その予想だにしていなかった反応…全開の笑顔に怯まされ、一瞬固まった雲雀に、綱吉は状況を好転させるべく、畳みかけた。
「雲雀さん。クロームの怪我酷いみたいだから、手当てしてあげてくれませんか?」
「………は?」
「ボス!?」
 綱吉の言葉は、先程、まさに雲雀が行い掛けていた行動をそのまま示唆するものであったために、二人の間には動揺が奔り思わずと言った声が上がるが、綱吉はそれらに構わず取り合うことなく続ける。
「ちょうど止血布とかあるみたいですし。オレ、帰ったばっかりで荷物とか全部纏めて置いて来ちゃったから手当て出来る物何も持ってないんですよ」
「…だからって、何で僕が、……」
 家屋損壊だ修理代だとあれこれ騒いでいた割に、しっかり雲雀達の様子を見て取っていた綱吉に、相当天然呆けている癖に侮れない生き物、と認識を新たにし、自主的にやろうとした事も他人に言われると癪に障るんだよね、と、唯我独尊の申し子雲雀は、一時置き去りにしていた腹立ちを、再び掻き集めて。
「そもそも僕は、君を咬み殺してやりたくて仕方が無いんだけど?」
 トンファーを、取り出して見せた。
 そんな雲雀を、腹を括った綱吉は、さらりと流してみせる。
「だって、雲雀さん怪我してるじゃないですか。結構、深手の。…オレに手加減、されたいんですか?」
「……こんな傷ぐらいで手加減させる程、僕が弱いって言いたい訳…?」
 挑発じみた綱吉の受け流しに、一層雲雀の声は不穏を帯びていく、が。
「雲雀さんは強いですよ?でもオレは、怪我してる人相手だとどんな人でも本気が出せないって、…良く、知ってるでしょ?雲雀さんは。……万が一でも、殺しそうになるような事、したくないんですから、オレは。」
 かつて。遠くなった昔、未だ幼い頃の事。闘う事を選べはしなかった頃。 意図せず、その手に命を掛けてしまいそうになった事があって以来…その事件ゆえに闘う事を選びはしたけれど、命だけは決して奪わないという、自身への自戒を篭めた、誓い。傲慢と、偽善と言わば言えと、それでも敢えて誓い定めた己への約定。
 その刻(とき)を、雲雀も、クロームも、目にしている。
「…だから、取り敢えずは傷の手当をして……!?」
 どおぉ……ん、と。
 建物を揺るがす衝撃と共に、爆砕音が響き渡った。
 次いで、数瞬の後。綱吉の懐にある携帯が、音を立て、鳴り響く。
「はい!…えぇ!?、うん、うん……、わかった。うん、音は聞こえたから、何となく嫌な予感はしてた……うん、行くよ」
 携帯を切り、二人に向き直る。
「すみません。山本と了平さんがドンパチやりはじめちゃったみたいで…止めに行かないとならないんです。 …そういう訳で、雲雀さん」
「…何。」
「クロームはお嫁入り前の女の子なんですから、ちゃんと手当ての方、お願いしますね?簡易処置終わったら、医務室までエスコートして連れてってあげて下さい」
「………エス、コー、……嫁入り前って…君、」
「…ボス!?」
 唐突に、…少なくとも、満身創痍の両名にとっては、間違いなく唐突に選択され飛び出した単語に、動揺が奔る。度肝を抜かれた、という表現が見事にはまる、硬直状態に二人は陥った。
「クロームの体に変な傷が残るようなら、責任取って、お嫁に貰ってもらわないと、」
「ちょっと待て沢田綱吉!……君は、一体何を……というか、何時の時代の人間なんだい君は!?」
「………!!!」
 ――ボス、私の意志は…!?
 更に続いた綱吉の発言に、常日頃の己の人格さえ見失いかねない程に動揺を露わにする雲雀と、もはや言葉すら出ないクローム。二人の動揺は、続く綱吉の言葉を耳にし、ピークを迎えた。
「保護者としては、当然の事でしょう。リボーンと親父…あとディーノさんもか、女の子はちゃんと守るものだって良く言ってましたし。それと、嫁入り前の娘さんを預かっている以上、きちんと最後まで面倒見ろって。…考えてみれば、オレとしても、二人ならそう悪くない縁組みだと思います、うん、多分」
 美人同士だから、きっと産まれてくる子も美人間違いなしです、二人の子供なら和風美人ですね、と。
「……!!!………!!!!!」
「それじゃぁ、失礼しますね」
 両者の動揺に微塵の注意も払う事無く爆弾発言をさらりとかまし、山本武と笹川了平の争いを止めるべく、綱吉は去っていった。
「………」
 ――僕の耳は、果たしてきちんと機能していただろうか、本当は何という音を拾っていたんだ……、沢田綱吉、君の思考回路は、一体どうなっている……?というか、全ての原因はその跳ね馬か、本当にろくなことしないアレは…っ!
「………」
 ――……この人は、この人だけは、イヤ、…ボス……!何で、寄りによって、…お嫁なんて話が……、
 でも、という思いが湧き上がる。保護者、と「クローム髑髏」との関係を言い表した綱吉の言葉。ごく当たり前に、クロームに相対する綱吉の言動。此処に居るのが至極当然、というその態度。
 ――ボスは、本当に、優しい。ちゃんと「私」を見てくれて、気に掛けてくれている。…いつも。大事な場所を与えてくれる、あったかくて、大切な人。
 結局、唐突な沢田綱吉の登場と退場によって、それぞれがそれぞれの物思いに耽り暫し、無言の空間が、広がっていた。
 そして、暫くの後。
「……取り敢えず、手当するから、腕」
「…………」
 ようやっと、何とか自力で気を取り直した雲雀が手当てをしようと促すが、クロームは警戒心を未だ解ききらず、戸惑いを消せずにいた。
「沢田綱吉の言う通り…責任取って、君を嫁に貰う羽目にはなりなくないしね」
 六道骸も洩れなくおまけで憑いて来るなんて縁起でも無いよ、そもそも六道輪廻とか言ってる時点で縁起も何もあったもんじゃないし全く…、と、恩に着せるつもりなど更々無いからと、手当ての理由を示した。
「! …私だって…イヤ……」
 言いながら、しぶしぶとその腕を差し出した。
 無言で手当てを続けていく雲雀に、クロームが、問うた。
「でも……貴方は、ボスの命令だったら…、従うの?」
 もしそれが、貴方の意志に沿わない命令(もの)だったとしたなら。曲がりなりにも雲の守護者である貴方は、どうするのと問う。今だって、結果として沢田綱吉に言われて、私の手当をしている、と。
「冗談じゃない。…何で僕が、沢田綱吉の命令に従うなんて言い出す?」
 雲雀恭弥に対し、畏れを知らぬ、挑発するが如きクロームの物言い。クロームを見据える視線は、そのまま視線だけで射殺さんばかりの眼光、憤りを湛えていた。
「だって……、貴方は…一見、ボスの命令(お願い)なんか無視するように振る舞っているのに…結果は、ボスの願い通りの事をしている。…ちょっと見ただけじゃ、解らないような形を作ってはいるけれど」
 雲雀のその視線に竦むことなく、クロームは続けた。貴方の行動の結果こそが、全てを指し示していると。
 返す応えは、あくまで傲然。全ては己の思うが侭に振る舞う結果なのだと。
「僕が僕のしたいようにした結果だ。それがどう沢田綱吉の思惑と重なろうと、知った事じゃない」
「貴方は、ボスの、雲の守護者」
「……何が、言いたいの?」
 尚も、己の言葉を言い募るクロームに返す言葉は、再び、重い不穏を孕み始めていた。
「貴方はボスを守るよう、動いている」
「違うね。…沢田綱吉は、僕の獲物、だよ。何時か、沢田綱吉の息の根を停めるのは、この僕だ」
 かつて沢田綱吉が己自身に殺さずを誓ったその時、期せずして、雲雀の内でもまた己自身に定めた約定。雲の守護者で在る事を認めた、その理由。沢田綱吉を己の手に掛ける、その時まで何人たりとも邪魔はさせず雲の守護者として在り、その命奪おうとする者は全て咬み殺す、と。そして、何時か、沢田綱吉の最期を決めるのは雲雀恭弥自身、沢田綱吉は雲雀恭弥の獲物であると。 そう、己が自身に誓い守護者の指輪を受け容れた。
「………」
 雲雀の確固とした言葉に、クロームは押し黙った。
 良く、似ている人を識っていた。
 沢田綱吉の躯を器とするべく、その存在を追い求め、手中にしようとする人。沢田綱吉は、あくまで目的達成のため手に入れたい道具に過ぎない、と断じる、哀しい、愛しい(かなしい)、…冷たく昏く在りながら、優しさを識っている、存在(ひと)。クロームの世界に於いて、全ての始まりで、クロームをはじめて必要としてくれた、大事な、存在(ひと)。
 クローム髑髏という存在を成り立たせ、同時に自身の存在を成り立たせる、その人……表裏一体の、けれどその人こそが、真なる、ただ一人の霧の守護者。
 ――この人は、骸様と良く似ている…。…でも、真逆でも、あるみたい。
 六道骸と躰を共有し、その意識を幻想の世界で繋げていると、自然と伝えられてくるその想い(こころ)。骸の追い求めているものは、決して沢田綱吉の空の躯(うつわ)のみでは無い事を、沢田綱吉たらしめているその躯の中にある魂にこそ、何時しか骸が惹かれている事を、識って、いた。…そう、クローム自らが沢田綱吉のあたたかさを求める想い(こころ)と、重なっているから、その想いは、解っていた。けれど、その先。クローム自身よりも一層激しく昏い想いが在った。沢田綱吉の存在を眩く感じ、求め、だからこそ己の内に取り込んで一体となり、その存在を認識する事すら無くしてしまう事で終焉(おわり)を求める、飢餓感(かつえ)、その想い(こころ)。
 けれども。目前の男は違う。執着する者に対する、絶対的な破壊衝動。その存在を求めながら、けれど己の手で徹底して壊し尽くし、存在の消滅に終焉(おわり)を望む者、その想い(こころ)。
 どちらも、結果として沢田綱吉の存在を追い求めおわりを望み、けれどその理由となる想い(こころ)は真逆の、……対のように良く似て、全く非なる者達。
 物思いを、言葉に因って破られる。
「だからね、六道骸には、絶対に手出しをさせるつもりは、無い」
 ある意味では、沢田綱吉の守りとなる言葉、想い。おわりを望む心から生み出されたそれら。
 そして、この場に存在しない六道骸もまた、そっくり同じに、雲雀恭弥に返しただろうそれら。
 だけど骸様、と、クロームの内に反発の声が上がる。
 ――私も……、違う、私、は。 私自身の想い、望みは、
「……ボスには、手を出させない」
 決然の響きに、違和感を感じた雲雀がいぶかしむ。
「ボスは、私が守る。…貴方には、殺させない。」
 ――クローム髑髏である自分は、ボスを守る。 そう、…骸様、貴方からも。貴方の内の、終わりを求めるその望みからも。
 それに、と想う。本当に、本当に骸様の望んでいる未来(さき)は、きっと…――
 己の願望に過ぎないとは、思わない。クロームを、犬を、千種を庇う、あの優しさを知る人だから、と。 いつか。何時か再び、骸様自身の躰で、ボスと相まみえる時が来たのなら、言葉を交わす時が来たのなら、きっと未来(さき)は、と。
 だから、それまでは。その時までは。
「……ふうん。それは、『君』の意志? クローム髑髏」
 六道骸の名を出さない、少女の言葉。
 あくまで、『私』が守ると言い切った言葉。
 半ばの確信を込めて、その意志の所在を、問うた。
「――ええ。そう、これは『私』の意志。」
 ボスを、私自身が、全てから守る。その意志を顕わす言葉。
「そう…。」
 雲雀にとっては何処までも、六道骸の宿体である少女。しかし、その自身の意を露わにした言葉に、認識を新たにする必要を覚える。何よりも、確認を求め合わせた視線の先、闘う意志を秘めたその瞳に、存在認識を揺るがされた。
 ――クローム髑髏自身(これ)も、牙を持つ存在(もの)だったみたいだね。
 密やかに、笑んだ。
「ならば今度からは、君に手控えるのは、止そう。」
 目前の存在をもまた獲物と認識し、うっすらと闘気を刷いた雲雀に触発され、クロームは傍らの三叉槍を引き寄せた。
「…望むところ」
 獲物の覇気に喜悦を覚えながらも、現状の互いの状態ではろくに楽しめないだろうと推察し、矛を収めるべく、雲雀は制止の言葉を選んだ。
「いや、今日の所は止めておこう。…沢田綱吉に、責任取るよう迫られても堪らないからね」
「…大丈夫。私は、死んでも貴方は嫌だってボスに言うから。…そうなるぐらいなら、ボスに、保護者として責任取ってもらう事にするって。」
 大人しくなるかと選んだ雲雀の言葉は、思わぬ反撃を喰らった。良く考えれば、否、考えずとも、相当に男としてのプライドを傷つけられる、…いくら此方が願い下げとはいえ、遠慮が無いにも程がある言葉。そして続いた言葉に、雲雀は苛立ちを掻き立てられる。…寄りによって、沢田綱吉?
「……へえ…? 随分、面白い事を、言うね?」
 この僕を問題外と言い捨て、あげくに沢田綱吉(僕の獲物)の側を占めようって言うつもり?
「ボスは、渡さないから…!」
 漂う雲雀の闘気に対し臆することなく、クロームは三叉槍を握りしめ真っ向から睨み付けた。
 もはや、両者の間に当初存在していた怪我を気遣う空気などは欠片すらも在りえず、気が付けば状況は捻れに捻れ。当初の終着点は見失われ、辿り着いた先は…、沢田綱吉を巡る、至極単純なだけに最も根の深い、闘いであった。…それは図らずも、常日頃雲雀が他の守護者達と、争いの争点としているのと、ほぼ変わらぬ理由に因るものであり。
「六道骸といい、君といい、南国果実兄妹(パイナップル)が揃いも揃って……本当に、存在自体が不愉快だよ」
 眼前、雲雀が武器を手にする姿を見据える。
 ――優しくて、大切な、私のボス。あたたかい居場所になってくれる、大事な人。いつまででもずっと、一緒に居たいから。 だから、ボスは、私が守るの。
 …それが、『私』の気持ち。誰にも譲れない、私だけの、想い(こころ)。
 ――ボス、だから、私は……、
「負けない……!」
 私は、私の想いで、此処に在りたいから。 自分の存在を、叫ぶよ。
 怪我の手当をされた事を内心悔しく思いながら、それでもある程度自由が利くようになった躰には少しばかり安堵し、…三叉槍を、構える。
 怪我を負いながら尚、好戦的に攻撃的にトンファーを構える雲雀に、全速で以て、三叉槍を突き込みに奔った。
 骸と躰を共有する事で借り得た、六道眼の力。未だ、本来の持ち主である六道骸程にその力を引き出しきれはしないものの、それでも、経た年月の分相応には、その力を使いこなそうと、努力し怠りはしなかった。幻覚で創り上げられた内臓でありはしても、己の躰として機能させ、身体能力を求められる戦闘能力(スキル)である、六道が一つ第四の道「修羅道」、…そして、第五の道「人間道」にすら耐え得るよう、鍛え上げてきた。加えて、クローム本来の、幻覚を実体化させ固定させる…それがゆえ六道骸を自在に呼び出せる…幻術師たる幻覚能力。これらを併せれば、…身体能力としては、膂力、持久力、体重に於いて劣らざるを得ない女の躰であっても、否、逆を言えば俊敏さを磨く事の出来る躰であるからこそ…、六道骸とはまた異なった、クローム髑髏なりの闘い方を、幾らでも導き出せた。
 だから、骸と伍する目前の男、雲雀恭弥にも、決して劣るつもりは無い…!
「ワオ、…やるね」
 与し易しとも見えていた獲物の、思い寄らぬ、気迫籠もった一撃。
 己の存在を声高に叫び、ただの空吼えではない力を示し見せたそれに、咬み応えを確信し次いで高揚し、雲雀の中で、自身の怪我による痛覚は意識の外、切り離された。
 受け止めた一撃、重さはさほど無いものの惑わすようフェイクに加え蹴り技も織り交ぜ、多角的に繰り出し続けてくる、多彩にして無尽の疾さの動き。軽い一撃と見過ごし突き込ませるままにさせれば、僅かずつでも傷を負わされ、その軽傷が積み重なれば深手の一撃と変わらぬ重みを伴って来る事になる。元より、先程の戦闘で大分に失血していた雲雀にとっては、これ以上無駄な損耗は避けたいものとなる。
 一撃に重みを乗せてくる六道骸とはまた異なった、戦闘形態(スタイル)。模倣では有り得ない動き。
「…うん。髪型は同じパイナップルだけど、面白いね。別物、…だ!」
 だけど、と。細かく突き込まれてくる攻撃を全て捌き続け、付き合い続ける必然は無いのだから、と。玉鎖を伸ばし、体を思い切り乗せきって大きく円弧の動き、薙ぎ払うよう振りかぶって間合いを取り直し、相手を捉え直すべく向き直った。
「…っ!!」
 雲雀の、重い撃ち込みに体を崩され、追撃を受ける事を防ぐため慌てて跳びすさり、…下がり様、柿元千種に習い覚えた牽制の飛礫を放つ。幻覚と実体、即ち有幻覚を織り交ぜた飛礫を。
「甘いよ」
 数限り無く六道骸を相手取って来た雲雀にとって、もはや幻覚を用いられた攻撃は、未知の戦闘能力では有り得ず、培ってきた対処を行うだけだった。
「!?」
 幻覚、と判じた飛礫が軌道を変え、襲い来ていた。
「甘いのは、貴方の方」
 気を取られた隙を逃さず、踏み込んできた。一度仕切直し得た筈の優位(ペース)を、即座潰される。再びの、応酬。手数が多くなる分、意識を分散させられざるを得なくなる。加えて先程の、幻覚の実体化。
 ――細かく刻まれてくる上に、更に意識の撹乱、失血も響いてる。…思っていた以上に、闘りにくい…!だが、だからと言って、
「僕に、勝てるとは思うな」
 手数では分があちらにあると言うのであれば、ならば、圧倒する力で以て、咬み殺してやろう。 速攻で、圧していく。…そう、方針を固め、捌きを中心とした動きから、多少の犠牲には目を瞑った、より一撃に重みを伴わせた動きへ変じた。
「…く、ぅ……!」
 様相を変えた雲雀の攻撃に、クロームは受け流しきれなかった力で圧され出す。自然、負荷を伴う攻撃を受け止め続けるリスクを負うのを避け、相手よりも広い間合いを生かすべく、避ける距離を大きく取り出す。
 そこへ、間断無く撃ち込み来る雲雀の一撃は重く、とうとう壁際、避けはしたもののクロームが居た場所の壁は、…元々既にして剥落していたものの…、無惨に砕け飛ばされていった。壁際沿いに跳びすさるクロームへ、躊躇無く撃ち込む雲雀の攻撃に伴い、破砕音が連続して鈍い音を響かせた。
「!!…おい!ボスに連絡しろっ!また雲雀恭弥と……クローム髑髏!? …、兎に角、地下10階で守護者がまた争っていると!」
 破砕音に気が付いた者達が、落ち着き無く騒ぎ出す。
 闘いには余計な雑音だとその姿を視界の端に捉え、…咄嗟、詰めていたクロームから間合いを大きく取り、その群れに向かって黙れと促しの声を上げた。
「大人しくしてなよ君達。でないと、咬み殺すよ?」
「!!ひ、雲雀、さん…!?」
 身内である筈のボンゴレにすら容赦無い雲雀恭弥の悪名は、度々勃発する守護者同士の闘いで解りすぎるほどに身に沁みているファミリーの者達であったから、即座、その場から撤退を計ろうとした。
「…駄目。貴方の相手は、この私」
 ボスの守ろうとするものは私にとっても守るもの、と、ファミリーの者達を背にするよう、クロームが庇い立つ。
「いい度胸だね。…でも本当に君は、六道骸とはまるで違うみたいだ、何処から何処までも」
「…貴方の方が、骸様とは、良く似ている」
「………何それ?」
 虚を突かれ、即座に嫌悪を顔に浮かべた雲雀を、クロームは黙って眺め、でも真逆でもあると言うのは止めよう、と思う。ついでに、煽ってみようと思ったのは…手当てを唯々諾々と受けざるを得なかった悔しさからの、ちょっとした、意趣返しの気分からだった。
「ボスに対する態度が、そっくり」
「…本当に、何を言っているのか解らないんだけど……?」
 一度訪れた、瞬間の凪の時間が、再び不穏な色に染まっていく。
 一触即発。
 膨れ上がる緊張が弾けそうになるかならずや、と言ったその場に。
「ちょっと二人共…ッ!!…何で、何でいきなり闘い合ってるのーッ!?」
 二人の闘いを停めるべく呼び出されていた沢田綱吉が、駆け付けて来た。後ろに、獄寺隼人、ランボと従えている。
「…五月蠅いよ、沢田綱吉。群れまで引き連れて……、…君も纏めて咬み殺してあげるよ…!」
 矛先を、クロームから綱吉へと代え、雲雀が撃ち掛かる。
「ッ!…クローム!?」
 上がったのは、綱吉の驚きを含んだ声。
 つい今し方、目にしたのと同じ光景。クロームが、沢田綱吉を背に庇い立ち、雲雀の攻撃を受け止めていた。受け止めた体勢はそのまま、僅か顔を後ろに逸らし、綱吉へと視線を合わせ、力強く決意の言葉を告げた。
「ボス!あなたの事は、私が、守る…!!」
「え。えぇ――…!? ななな、何?何で、…何がいきなり!?」
 常に無いクロームの気迫とその言動に、驚愕の叫びを上げた綱吉のみならず、獄寺、ランボの間にも動揺が奔った。 何が起きた、と、一様にその顔には書いてあった。
「…ていうか、雲雀さん!この子はクロームで、骸じゃないですよ!?咬み付く相手が間違って、」
「何一つ間違いなんか無いよ。僕は、この『女』を咬み殺したいんだ」
 そもそもの根本的な問題解決を図ろうと、雲雀に自制を促し掛けた綱吉の言葉を最後まで言わせる事は無く、己の現状認識は正しい、と雲雀は言い仰せた。
 いよいよもって何がどうしたと、蚊帳の外、もはや烏合の衆…ただの野次馬と化した嵐と雷の守護者二名は囁き合う。
 一応、自身も話題に含められているらしい状態の綱吉が、一人果敢に、現状把握及び事態収集に努めるべく、当事者双方との対話に挑んでいた。
「何で、こんな事に―!? 確かさっきオレが此処出てった時には、雲雀さん、クロームの手当てをしようと……うわっ!?」
「…させないっ!」
 綱吉の言を遮るよう、再び雲雀がトンファーで撃ち掛かり、…三度、クロームがその狭間、割って入る。
「…ボス!」
「うぇ!? は、はい…!」
 どうにも、ひたすらクロームに庇われ続けるその状況に当惑する綱吉に、クロームが呼び掛ける。
「私、死んでも、この人だけは絶対イヤだから!責任なんて、取られたくない…!!」
「…!う、うん、……いや、あの話!?さっきのはね、二人に多少なりとも仲良くして貰おうとして言っただけだから…!」
 ――もしかして、さっきのオレのあの嫁入り前発言が原因!?…オレの馬鹿―!何だかもう、全部が裏目に出ちゃってる―!?
 よもや先程の話題が出てくるとは、と…しかも、それが原因なのではと伺わせるクロームの言葉に、オレって何時までも何処までもダメツナ―!、と内心、激しく己を詰る綱吉に、雲雀もまたクロームに張り合うよう、言い放つ。
 因みに、当然の事ながら…当事者達以外には、全く理解の出来ない言葉の応酬であった。
「僕だってこんな女、お断りだ。のし付けて……………、でも、沢田綱吉(きみ)には、やらない。」
 雲雀の言葉に、おぼろげに、何か綱吉が雲雀とクロームに関して…有り体に言って男女間に関する何かを発言したのではないかと、かろうじて感づいたのは、その場に於ける最年少のランボであり。
 そして、雲雀の最後の一言に、ただ何ともなしに不穏な空気を嗅ぎ取ったのは、獄寺。
「へ!?」
 突然の名指しに綱吉が狼狽える。
 すかさず、クロームが反駁する。
「貴方が決める事じゃない。それはボスが決める事…、」
 そして野次馬達に更なる衝撃を生む発言を続けた。
「……ボス。私が傷モノになったら、ボスが責任取ってくれると、嬉しい。」
 場が、どよめいた。
「…!!?」
 ――…何ですと――!?
 綱吉の声にならない心の叫びは、同様に、獄寺、ランボの叫びでもあった。綱吉がふと背後を見やれば、獄寺は懐に手をやりダイナマイトを取り出している。その据わった目線は、クロームへと狙い過つ事無く向けられており。恐らくは、無意識に…条件反射で行っているだろうその行動。
 一瞬、クロームの発言から逃避できるだろう事実に綱吉は縋り、獄寺を正気付かせる事を優先した。
「獄寺君!ダイナマイト、ダイナマイト握ってるから…!取り敢えず、それ仕舞って…!!」
「…は!…な、何ででしょう10代目、…俺、気が付いたら攻撃し掛けようとしてたみたいで…!」
「……い、いや、……何、で…?」
 やっぱり無自覚だったのか、この人―…、と逃避のためとはいえ獄寺の制止を選んだ事に一瞬安堵する。
「モテモテですな、お若いの」
 そこへ、綱吉の動揺に…ひいては嵐と雷両名の動揺に…追い打ちを掛ける、突如現れたリボーンの合いの手。
「な、リボーンッ!?お前、何時の間に!……いやこれ、モテてないって…!!ていうか、何がどうしてこんな事になってんだよ…!?」
「理由なんぞ今来た俺が知るか。取り敢えず端から見れば、お前をめぐっての争いに見えるけどな」
「そう、それで合ってる」
 疑問の余地など有りはしない、とクロームがリボーンの言を肯定する。
「え――――!?いやいやいや、合ってないでしょ!?」
「合ってない。僕は君達を咬み殺したいだけだから」
 有り得ない、と否定する綱吉にそれを肯定する雲雀、あくまで己の望みを口にする。
 雲雀のその言葉に、クロームが反応し、互いに武器を構え合う、一触即発の気配。
 ――……どっちなの――!?
 あくまで己の主観による主張をする当事者達に否定され肯定され、多少なりとも状況を把握し得る筈の立場の綱吉は、もはや何が事実なのか、何から問い質すべきなのか、争点を見失っていた。嵐と雷の守護者両名に至っては、何をか況や、出来る事は固唾を呑み静観するのみ、リボーンは…明らかにこの事態を面白がっている節がある。
 ――…取り敢えず、今の自分がするべき事は、この、事態の収拾…!頑張れオレ、これ以上アジトは破壊させない修理代は増やさないためにも、負けるなオレ……!
 新たな決意を胸に、思いつく限りの打開案を並べ立てる事にする。為せばなる、為さねば成らぬ何事も…って、リボーンに叩き込まれてきたもんなぁ、などと内心呟きながら。
「…とにかく!オレが不用意に、変な事言ったのは悪かったです。あの発言は取り消しますから、…お願いだから二人共、もう止めて下さい…!」
 両者の気を引き、己の過失は謝るからそれが原因であるならば、矛をどうか収めてくれと懇願し、けれど。
「嫌。」「イヤ。」
 二人同時の、却下。
 綱吉に向けていた視線を、再び互いに戻した。油断無く互いの動向を探る、目の運び。
「……………!!!」
 ――こんな、こんな時だけ、気を合わせてみせるなんて……!何て小面憎しい気分にさせてくれるんだこの人達は……!?
 綱吉の嘆きを余所に、再び雲と霧の焔纏った者達が、ぶつかり合った。
 …ホントに、何がどう間違ったのオレ!?クロームに対して雲雀さん、今まであんまり敵愾心無かった筈なのに、クロームだってあんなに好戦的なコじゃ無かった筈なのに……、上手くすれば仲良くまでいかなくても、もう少し落ち着いた関係が…骸含めて築けるかもとか期待したのに…!!
 破砕音響き。また壁の一角が壊された事を嫌が応にも知らしめてくる。原因を見やれば……
「…ああぁ、とうとうクロームまで…!!また破壊者様お一人追加なの―!?」
「10代目。俺が間に入って、止めに行きましょうか?」
「オレも、及ばずながら……獄寺氏も一緒なら…、お手伝い致しますが?」
「それは、ダメ。…申し出はありがたいんだけどさ、…獄寺君達が入ったら、余計に騒ぎを大きくして更に被害が拡大するだけだから」
 雲雀さんなんか嬉々としてアジト全域に戦域拡大しかねないし、そもそも、獄寺君の武器自体が問題外、ランボにしたってアジトのシステムがパーになりかねないから、全て却下、と…本当に守護者ってただの破壊者集団だよな、と虚ろになった視界に、相争う二人を捉えていた。
 問題解決までの道筋が見えず思わず項垂れ、何処まで遡れば良いんだろう、いやそもそも次に打つ手を考えなくちゃ駄目だろオレ、いやそれを考えるために今遡ってるんだから……、と自家中毒を起こし掛ける。取り敢えず…泣きたい、かも…、と。
「本当に、お前はダメツナだな」
「……言わないでくれ…、本当に、今、実感してる所……!!」
「相変わらず、鈍い所はそのまんまだなお前…」
 雲雀にとっちゃ獲物、クロームにしたら宝物って所の、いわば賞品、お前の所有権を手に入れようと争ってんだアイツらは、と、しかし敢えてそれを口にはせず。
「何を……、あ!」
 リボーンの物言いが理解できず、問い返し掛けた所で、寄って来た二つの人影に気が付く。

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2012.12.23 Sun 「 【ネタ】FF8 サイファー×ニーダ 妄想その他
[FF8 サイファー×ニーダ 自HP9000hitリク頂いて…完成できず、何年だ…。これ、どういう風にラスト持ってくつもりだったのか、思い出せない…。ですが、取り敢えず、手を入れる気があるのは晒す方向です。サイニーネタ帳…何処かにしまいこんでしまったけれど、あれ、一応ラストまで筋道立ててたんだよな…。出来ればサルベージしたい…]

 自動制御された合金の扉が開くと、まず窓が視界に飛び込む。人の肩幅二人分より僅かに狭い程の枠幅を持つ、明り取りを目的としたそれ。瀟洒な細工を施された格子が組み込まれ、上部を半円に刳り貫いたその造りは、バラムの明るく煌めく日射しを受けた時、光と影を生み出すよう設計されている。
 しかし今は日も落ちた夜半、鈍色の雲が重く空を覆い、その遙か上から射し込む月光は遮ぎられ、僅か、滲む薄明かりが届く程度。照明は本来の役割を果たすことなく、ただ備え付けられた室具の一つとして在った。
 叩き付ける雨は、華奢に見えながらも堅牢な硝子に阻まれ窓枠を揺らすことはなく、ただ跳ね返る水音だけを響かせる。

「もう、終わりにしたいんだオレは」
 薄暗い室内。
 雨が激しく窓硝子を打ち付ける。
 窓を背にして佇む、暗い人影。微かな明かりが逆光を生み出し、それをはっきりと見ることは出来ない。
 無気力、或いは自棄故か。
 項垂れたように見える塊りは、しかし、室内に入ってきた者を見据えていた。
 拒絶という明確な意志だけを露わにする、言葉。
「・・・何の、話だ?」
 部屋の主の言葉に、訪問者は、訝るよう言葉を返す。
「全てを、」
 全て?
「お前と、オレと。オレ達の間にある関係に。終止符を打ちたい。」
 切れ切れの言葉。訪問者は言葉の切れ端全てをつなぎ合わせた。
 つなぎ合わせ、それらが包括し表す事実に思いを馳せた。
 両者の関係。
 関係と呼べるほどの物が、果たして俺達の間には存在していたのかと反芻する程に、当事者の片割れである筈の自分すら釈然としないつながり。
少なくとも、唐突な思いつきのような言葉に即座に意志の疎通を図れるほどのつながりは、両者の間には存在しない筈だった。
 しかし、もう一人の当事者が関係と呼ぶ、つながりと呼べば呼べるであろうそれに、ああそうだ、と思い当たった。
 自分がこの部屋を訪れる理由。
 いつの間にか自分の日常の行動の中に組み込んでいた、この部屋への訪問。
 恐らくは、目の前の男が何よりも忌避したがるそのつながりに思い当たり、知らず、訪問者の厚い唇の端が吊り上がる。
 愉悦。
 くく、と喉の奥が震えた。
 それに拘る男に、自然嗤いが零れる。
「・・・お前が打ちたい終止符というのは、俺に抱かれる関係に対するものという事か?」
 相手が曖昧に綴った言葉を、敢えてはっきりと明示した。
 そして言葉にした刹那、それに対する相手の反応を見たいという衝動に駆られたが、生憎、逆光で表情は伺い知れなかった。しかし、僅かに揺れる影に相手の動揺を感じ取り、ほの暗い喜びを感じる。
「俺達の関係なんざ、いわゆる”肉体関係”ってヤツだけだ、・・・違うか?」
 そうだ、両者の関係は、接点は、肉体だけ。
 そういう事だ。
 目の前の男にとってはこの上なく屈辱的であろう、関係。
「違わない。」
 暫しの沈黙の後、真っ向からそれを肯定する声。肯定することは事実を受け入れることだ。それを口にすることで、どれ程の更なる屈辱をこの男は感じているのか?
 ---被虐の歓び、獲物が捕らわれなお傷を負いながらも抵抗する様は、絶対者の心を満たすのだ。人など所詮はこんなモノ。
 今は逆光で見えない自分を見据える黒曜の瞳が、濡れた光を零しながら炯々と睨み付けてくる様を想像する。そして、その瞳の揺れる様を思いだし、眼窩の奥底が、じり、と熱くなるのを意識した。
 ---あぁ、そうだ。そんな事を思い出す程には、馴染み合った躯のつながりだ。
 思い出したように繋げた躯。
 貪るように、そこに在るもの(存在)全てを喰らい尽くすように、ただ餓えを満たすように、憑かれるように抱いた。
 腕の中で悔しそうに歪む顔、明らかな快感を覚えたことに見せた羞恥の色彩(いろ)。
 抵抗しようと全身を強張らせ、拒もうとする筋力の動きを、力でねじ伏せ組み敷いた、その瞬間に脳裏を突き上げる征服の歓喜。
 張りの有るしなやかな筋に支えられた肢体は、柔らかく脆く崩れ去りそうな女達の肉体と違い、確かな質感を持って答えた。
 交わす言葉は無い。睦言も、囁きも。ただ、荒い呼吸と喘ぎと濡れた抽挿音がその場に存在する音だった。
 ・・・そう。在るのは、ただ器としての繋がりだけだ。
 そして、そこに存在するのは、征服する者と、それに服従する者。
 強者と弱者。
 力だけが両者の関係を意味付ける。
 ならば。
 その叫びは、関係の清算を求める言葉は、
 弱者としては当然の反応か。
 つまりは。
 答え(そこ)に至り、吐き出した息とも尽かない苦笑が漏れる。
 これはつまり反乱、か。


「お前は、オレの中を踏みにじり掻き乱すっ! 土足で上がり込んで、何もかもを滅茶苦茶にひっくり返して掻き混ぜて・・・ッ」
 覆された価値観。
 同性だというのに、否、同性であるからこそ余計に感じる屈辱。
 同じ立場に在るはずの者、いや、SeeDである自分の方が、立場は上だとすら言えるというのに。
 容易く、あまりに呆気なく、その境界線は脆く崩され、自信も誇りも打ち砕かれ。
 感じたのは、相手への憎しみ、己の、あまりのふがいのなさへの憤り。
 そして敗北感。
 敵わない。
 そんな声が、木霊する。
 認めてしまいたくなる、その言葉。
 けれど。
 それでは、自分は何だというのだ。
 学園を動かす・・・何時かは、そうなってみせると、前を向かっていた自分は。
 気持ちでは何者にも負けない、譲らない、と。自分は自分なりに、己の価値観で勝っていくのだと。
 そう、思っていたのに。
 「力」。
 圧倒的なそれの前に、自分は為す術も無かった。
 それが無くとも、それを補うものを自分は持っている、けして負けないと思って進んできた、胸に抱えた自負心、自尊心。恐らく今までの自分を支え裏付けてきた何もかもが。
 ものの見事に砕かれた。
 そして、思い知らされる。
 この男が部屋を訪れる度に。
 両者の力関係を確認するかのように、毎度ねじ伏せられ、行為を迫られる。
 嫌だと拒めば、拒む程にその行為を強いられる。
 まるで隷属するかのような自分。
 支配者の如く振る舞う男。
 自分を支えてきた基盤が、剥落していくのが感じられた。
 取り立てて目立つことはない。
 優れている、と評価される魔法力も、男として何よりも真っ先に誇示される肉体面の頑強さに比べれば、それは霞む。
 容姿ーー僅かに東方()の流れを汲む顔立ちは、確かに平凡というものでは無かったが、その特徴の持つ凹凸の無い人形のような平坦さ故に、主張はなく。
 総じて、当たり前の一SeeD候補生として過ごしてきた。
 それでも。否、だからこそ。この目の前の男や、スコール・レオンハートといった一目見ただけで印象を強く残す存在感は無いからこそ、自分なりの価値観を保ち、上を目指すだけだと思うことで、自分を支えてきた。
 正直、彼等を羨望する事がなかったわけではない。
 男として、彼等ほど既にして備わった身体能力をうらやまぬ筈がない。
 雄である事を、包み隠さず、主張する身体。
 刺激された。
 「平凡で、いいのですよ」と学園長に声を掛けられた瞬間、理解されていた事への安堵と同時に、突き放されたような落胆を、悔しさを感じた。
 そう評価される自分。
 だからこそ、意地ででも上へ向かってやると、あまりに浅ましいと思いながらも、そう密かに心の中で誓った。
 そうやって、自我を支え、自負心を育ててきた自分を、あっさりとこの男は踏みにじっていく。破壊していく。
 もう、自分は手足がちぎれきる寸前の、意志すらも持たぬ玩具の様なモノへ成り果てるのだろう。
 だが。
 それだけは嫌だと。
 例え自分が敗者であることを認めたとしても、それでも只の木偶人形に成り下がる事だけは認めないと、欠片の意地が頭を擡げた。
 名を挙げるのだと。
 余所者である自分が成り上がるのだと、無力感と共に感じた、幼き頃の野心、上昇心。
 傍流であるはずの自分が多分に受け継いだ力を使って、名を為すと誓った、子供の自分。
 どれだけ踏みにじられ蔑まれようと、歯を喰いしばり、目を真っ直ぐに背けず。自分達を阻害しようとする力に屈すること無く。逆らい、睨み付け、蔑まれる由縁たる血脈に誇りを持って生きてきたのだ。
 そして知った、ガーデンの存在。
 知った瞬間、これだ、と確信した。
 自分という者の名を為すための術。
 己の誇りを、示す場所。地位。
 



「本気で、終わらせられると思っているのか? お前は」
「終わらせて、やるさ。」
「・・・ふん、逆らう飼い犬にはお仕置きが必要・・・とな」
「無駄口を叩くな。・・・抜け」

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2012.12.23 Sun 「 【ネタ】スペフォ愛邪 ソル→シンな日常一コマ(裏切り前)その他
[スペクトラルフォース 愛しき邪悪 ソルティ→シンバな、ソルティさん裏切り前の日常一コマネタ
 8割ぐらい纏まってる記憶だったけど、6割ぐらいだった。大蛇丸さんの台詞調べ直さないと話にならんわー。。。
 ソルティがシンバの天真爛漫さに救われながらも嫉妬し、それでも執着せざるを得ない程に心惹かれ、所有欲を抱いてしまっている、二律背反かつベタ惚れな心境を書きたかった…筈。]


「シンバ? シンバ、何処に居るんだい?」
 緑の国ムロマチと表されることがある、その豊かな森の木々の中、紅く長い髪を一つに束ね背中に垂らした青年が、辺りをしきりに窺いながら歩を進める。
 すらりと丈高い、けれど未だ少年の面影も残した繊細に整った顔立ちと、細くしなやかな体躯。そのたたずまいと碧瞳の油断無い煌めきが、青年を知性に優る者と伺わせる。しかし、背に負った身の丈近くある長剣は、彼がその手に武器を握る者であると物語っていた。
「…シンバ! いい加減城に戻って貰わないと、政務が進まないんだよ。シンバ、…シンバ、居るんだろう!?」
 先程から探し続け割いた時間の割に、目的の人物は一向に見つかる事がないのか、だんだんとその声は苛立ちの色をにじませる。
「いくらある程度行く場所に目星はついてるっていったって…そもそも森自体が広過ぎるんだから」 そう呟く青年は、森の中目的の人物が居ると予想される数箇所の場所の内、本日四箇所目である場所を目指して歩いていた。

 紅髪の青年の名をソルティという。ネバーランド大陸の極東に位置する島国ムロマチの軍師であった。
 そして、彼が捜し求める人物こそが、ムロマチ国主であるシンバ。 その身に自然の化身である古代神ガジュウを宿す稀有なる少年。 元々自然の守人の一族であった彼の少年は、戦乱の影が見え出した時期、”声”に導かれるまま辿り着いた泉の水底でガジュウの力を得、戦乱の災禍によって焼払われ薙ぎ払われゆく自然の悲鳴を己がものとして感じ得るようになったという。
 そして少年は憂いた。 覇を競い合う人間達によって無為に壊され喪われてゆく生命達を。 それらの叫びを感じながらも救うこと叶わぬ己の無力さを。
「戦争は嫌いだ、自然が破壊されることは僕には耐えられない」と。
 その様な折り、少年の前に現れたのが青年であった。
 青年は、少年に告げた。 ――このまま、己が欲望に突き動かされるままに争いを続ける者達によって無為に喪われる自然を、ただ手をこまねいて見過ごすのか、と。ただ憂い嘆き続ける事で得るものは己の憐憫という自己満足を満たすものでしかない、真に守りたいものが在るならば、己の持ち得る限りの力を以って立ち上がるべきなのではないかと。
「君は、自分には力が無いと嘆くけれど、君は一人じゃない。 僕が居る。」
 少年が自身一人では足りない力は青年が傍らで補うと、その守りたいという想いこそが何より大切なのだからと、青年は告げた。
「僕は君と共に行くよ」
 想いを叶える為に、その行く先が修羅の道であろうと同道しようと。少年の持つ自然を体現する力と、青年の献策を生み出す智略を携え支え合い。 そうして進む先、少年の目指す未来を共に形作ろうとする者達も現れる筈だからと。
 告げた青年の碧瞳を真正面から見上げる、少年の大地色の瞳に湛えられた無垢な光は、了承の意を浮かべ、信頼の色を掃いて笑み崩れた。
「それじゃぁ、僕達は友達だね」
 少年は、疑うこと無き純真さと穢れ無き無垢を以って、青年を受け容れた。友情という絆を結び合い。
 そして彼等は、自然を苛む元となる無用な戦乱を抑えるべく、競い争いあう国という枠組みを無くす為の戦いへ身を投じた。
 彼等はムロマチの城を拠点とすべく、国主大蛇丸が城を空けた時を狙い居城を襲撃した。皇竜スペクトラルの生まれ変わりと囁かれ、武を以ってその勇名を轟かせ人心をまとめあげる国主が留守であればこそ、守りを固める兵達の覇気も精彩を欠く。それを狙っての強襲であった。数で劣る彼等ではあったが、多少の無理を承知とすれば、無謀な策では無かった。事実、一時、城は彼等の手に落ち掛けていた。
 だが。機敏に状況を察し居城へと舞い戻った大蛇丸自身の手により、彼等の乱は幕を閉じた。
「   」
 捕われる段に  彼等に言い放った大蛇丸の言葉に、彼等は驚愕し、困惑した。



「全く…我が国主殿は、どうしたらこんな時期に失踪出来るんだ。もう、残された時間はあまり無いというのに、」
 苛立ちと共に無意識に言葉が滑り出した瞬間、自身の言葉に青年は表情を曇らせた。
 そうだ。時間が、もう無い。この国が覇道を駆け上り、名をこの大陸の歴史に永劫刻み付ける、その為に許された時間は。
 …否、そうではない。違う。
 自身に許された時間が、残り間もないのだ。
 それは、免れること無き未来。
 それを知った少年は、どんな表情(かお)をして自分を見上げるだろうか?
 脳裏に、それを思い浮かべようとして、けれど果たせず失敗する。
 当たり前だ。
 あの少年が今までに一度として見せたことのない表情の筈なのだから。
 埒も無い想像を試みる自分に、失笑を漏らした。


 汚れ無き、純真無垢なる、純白の。 真っ白な。 それは、侵される事無き深山の峰に、降り積もる白雪の如き真白さ。真っ直ぐな?
 誰もがそんな形容を心中に浮かべ、称え賛美するだろう、鮮烈な印象をどんな者にも変わらず焼き付ける彼の主たる少年の、その生来の性質とは真逆であろう表情を想像しようとする、己の(卑小? 愚劣?)下劣さ。
 彼にその顔をさせることで、汚そうとでも思ったのか?
 否、たとえそれが無意識であれ、それは恐らく自身の望みなのだ。あの少年の表情が歪み、醜く引きつる様を、憎悪で凍てつくーーーいや、苛烈に燃え上がるのだろうか?、その瞳を、どうせならば、いっそ他の誰でもない、自分こそが引きずり出してしまえればいいと。そう、望んでいるのではないのか? 彼の闘神ウェイブの言葉にすら、自分は未来を見つめ続ける、けして後ろは振り返らないのだ、とーーーあまりに純真に、言うなれば子供の一途さともいえるだろう、己の信念を貫き通そうとする貪欲とも言うべき頑迷さ。自分を崩すことなく、けして他者を憎みはしない…それは裏を返せば、如何なる者をも懐に抱いたとて、己を守ろうと無意識に殻を造るのか、決してその心の奥底までは受け入れず。 だからこそ、彼の少年は迷い無く唯一筋の道をひた走る。 (自分の中に受け入れようとはしないからこそ。)
 ならば。
 ならばこの自分こそが
 常に側に、友としてその隣に在り続ける自分が、

 あの少年の心に楔を打ち込むのだ、
 それこそが、己のが望み。
 彼の少年に、決して忘れ得ぬものを刻み付けるのだ。
 それが少年自身の、少年自身足り得る本質を、壊し得るものであろうと。
 否。
 それをこそが我が望み。
 己の行いによって、崩される少年が見たいのだ、自分は。
 
 何という、愚かしさか。


 あの少年を望んでも居ないーーー恐らくはそれまでの短い生涯一度として考えだにしなかったに違いないーーー歴史の表舞台に引きずり出したのは自分だ。欲得尽くの黒く昏く染まった腹の底を見せる事ないよう、少年の心を動かすだろう平和の獲得を餌に近づき、やがては「友情」を創り上げ・・・、全ては計画通りに。滞り無く、何一つ支障無く計画は順調に進んだ。
 そして、気が付けば
自分こそが、囚われていた。
無条件に寄せられる、信頼を湛えて煌めく瞳。 真っ直ぐに、瞳を捕らえる無垢な 


 少年との、変わらぬ信頼関係ーーー友情を望みながら、けれど最初からそれが存在し得ない関係だと知る自分。
 必ず来るその優しさに彩られた関係の崩壊に怯え、しがみつきたいと、出来うる限り隠し仰せたいのだと振る舞いながら願いながらも。
 その真逆を望むのだ。
 矛盾。
 絶対に待ち臨む結果であるのならば、それならばいっそ、自らの手で何もかも壊してしまえと心が叫びを上げる。
 どうせ歪ませるのならば、決定的に、自らの手で、より残虐に派手に露悪的な程に。
 逆らえない他者の波に巻き込まれ刻まれる傷跡よりも、自らの手で引き裂いてしまえば良いのだ。
 その愉悦。
 彼の温かく眩い心に、紅い徴しを刻んだならば。
 その歪んだ顔は、どれだけ自分を満たすことだろうか。
 自分が、彼を壊し崩していく。
 他の誰でもない、自分こそが。
 それは、幸福だ。
 自分であればこそ、自分しか出来ない事に、万能を感じるだろう。
 他の誰でもない、自分のみが出来ること。
 その時、それは至福となるだろう。
 
 少年の心は、自分を映し出す。(自分を刻み付け、癒えない瑕疵を残す。)
 
 彼の心は、自分のもの、となるのだ。


 だからそれまでは。
 誰のものにもならないよう、守っていよう。
 何者にも打ち砕かれぬよう、大切に、大切に。
 真綿でくるんだ赤子の様に。
 自分が、守るのだ。
 その時まで。

 梢の元、あどけなく口を開けて小さな寝息をたてるその口許へ、顔を寄せた。

 これは、僕のものだ。

 微かな呼吸を吸い取るように、唇を重ね合わせた。
 柔らかな、弾力が受け止める。
 少年は気が付かない。
 そのままそっと離れ、今度は少年を覚醒させるために、肩に手を掛け揺すった。
「シンバ。 …シンバ」

 穏やかな日射しと、柔らかな梢の緑。
 少年の愛して止まない、彼が自ら軍を率いる理由となった、これら自然。
 少年自身が溶け込むように見えるのは、少年がそれらと良く似ているからこそか。
 君を守るように、これらを守ろう。
 この口付けは、契約の証だ。
 僕だけしか知らない、僕自身の為の。
 来るべきその時まで、僕が自ら君を引き裂くその日まで。
 僕は君を守ろう。

 これまでも、これからも。
 君は、僕だけのもの。
 
 己の心中に自嘲とも至福とも付かぬ笑みを口元に浮かべ、青年は、少年の名を呼んだ。


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2012.12.23 Sun 「 【ネタ】何だかんだで割れ鍋に綴じ蓋なヘラ菊APH(only18over)
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2012.12.20 Thu 「 【ネタ】中華パラレルな櫂アイ←レンヴァンガ
ネタ

中華というか、別世界中華風パラレル? 歴史モノ+ハーレクイン的展開で!
モンゴル(遊牧民)と、漢人(定住民)の確執をベースに、境界地域の小国単位での話。

櫂:遊牧民の首長。
   かつて、定住民の国の一つの王に約定を違われ、血族を虐殺された為、定住民に対し猜疑心が強い。軍略に優れ、破竹の勢いで他部族を吸収しつつ、定住民国家を侵略していた。
アイチ:櫂の一族に、国を滅ぼされた定住民。
   神の声を聞き、民草を導く存在=サイクオリア能力でクランと交信できる神子として崇められていた。櫂侵攻の折には、軍師として防衛策を立てていたが、あえなく敗戦。
レン:アイチと同国民。
   官僚として、定住民の国で仕えていたが、遊牧民と密かにつながり、自国を売る事で、櫂に近づこうとする。実は他国王族、世の様々な事に対しての復讐も兼ねていた。合い争わずにいられない人間という存在を嫌悪し←?ちょっと違う? サイクオリア実は有り。策士。

 アイチの国を櫂が滅ぼし、神の声を聞く、という生神的な信仰の中心=人心を掴んでいる存在を、影響力いかんによって、生かしたまま飼い殺しにしつつ利用するか、殺すか、考えようと、対面。国防衛の采配を振るっていたのがアイチ、苦戦させられた相手、という関心がある。
 お約束だが、手を出して、側に置くことにする。(手を出す過程…アイチのサイクオリアを見て、神職が青童で無くなったら能力をなくすのが古代よりの習わしだが、どうなんだ、という流れにするか、単純に惹かれたから手を出すか、アイチの素直&穢れや心の醜さを知らない物言いにかっとなって手を出すような流れ?)
 アイチは、国の要職にあったレンが、櫂の隣に並び立つ姿に驚愕している。

レンに調教されたり、櫂に執着されたり、櫂の不器用さに心惹かれてみたりするアイチ。
肉体的には開発されまくる。

 櫂の一族が他国或いは他族に攻められる等の危機を迎える時、アイチの能力で危機回避。
 アイチに心を許し始める櫂。
 レンがその展開に、苛立つ。敵同士が心を開き、打ち解け合う?血族を滅ぼされ、氷の竜王(遊牧民だと、竜より狼が正しい。竜は中華思想で至高。かげろうだと竜なので、なんか適当に遊牧民が竜を尊びそうな感じの伝説を捏造して、説得力をつける)と呼ばれる男が人間に胸襟を開く?有り得ない。

レンが暗躍、裏切り、等事件を引き起こす。
最終的に、レンの中の人間嫌悪を、アイチ(と櫂)が解消させるようなオチ。その間、愛を育み、精神的にとうとう互を認め合い、くっつく感じにする。(肉体的には、結構事あるごとにやってる)


 世界観としては、カードファイト=神事に近い扱い? カードファイト←囲碁みたいに、戦略的な能力も鍛えて、軍師的な能力も神子は有している存在。櫂の一族の危機を救う時には、能力に加えて、献策していた。この時のアイチの手腕に、櫂はアイチを認め出す。

[というような、これまた厨二全開ワールドを、夏ぐらいに考えていて、取り敢えずネタだけど、形にしてみた。]



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二次創作のネタ…以前の種をばらまく場所。 ヴァンガ、トリコ、TOX、APH等。 主に腐った人向け。男同士の恋愛妄想ネタがダメな方はお引き取り頂ければ幸いです。
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